平和病院緩和ケア科の特徴のひとつは、ほかの診療科と同様に外来診療を行っていることだと考えている
がんの治療中でもつらい症状は出てくることも多いので
その症状を緩和していくことで、いい状態で治療を継続していくサポートを行うことが大切な役割だと思っている
このため何年も緩和ケア科外来を通院する患者さんも多く、旧病院の時から通院を続けている患者さんも多い
Mさんもそんな患者さんの一人で、もう5年以上前から緩和ケア科の外来通院していた
しかし徐々に病状は進行し、このまま通院していてもいざ入院になった場合、コロナ騒ぎの影響で面会が大きく制限されていることもあり・・・
在宅療養を決意し、連携の訪問診療の先生のもとで療養を継続することになったが・・・
症状コントロールがうまくいかず、入院要請があり
腹水の貯留・疼痛の増強での緊急入院のため,一般病棟からの入院になった
病状の厳しいことは理解されて、ご自分でも今回はそのまま退院はできないと考え
自宅の持ち物を整理し、人生最期に私と乾杯するためのシャンパンを持参しての入院だった
ただ・・・一般病棟では、もちろんアルコールは禁止なので飲むわけにもいかず、(体調も悪かったのでお酒を飲むような状況でもなかった)そのままになっていた
腹水の除去、疼痛コントロールを行ったところ・・・
状態は見違えるように改善、空きを待って緩和ケア病棟へと転棟、療養を継続することになった
その後も症状は安定していたので、Mさんからも退院の希望も聴かれるようになってきた
「退院したくなったけど、。もう最期だと思って、持ち物みんな処分しちゃったんですよねえ・・・どうしましょう」
と、苦笑いしていたが、結局「皆さんにまた時間をいただけた」と、
自宅への退院を決めた(覚悟して処分してしまった服などを買い直して!)
退院の二日前・・・「せっかく持ってきたんだから、シャンパン、退院祝いに飲んじゃいましょうよ!」とのことで・・・
「次の時はほんとに最期だろうから、もっといいシャンパン持ってきますね!」
と・・・勤務の終わった夕方、病室でささやかな退院祝い??(緩和ケア病棟ではアルコールOKにしているので)
コロナ騒ぎで気の重くなる毎日・・・
チョッピリ穏やかな気持ちにさせていただいた・・・宮内庁ご用達のシャンパン・・・おいしかった!
Mさん退院おめでとう
先日、緩和ケア病棟に入院中の患者さんとパートナーの方の、ささやかな結婚のお祝いがありました
患者さんの息子さんや娘さん、お孫さんなどが結婚されるという話は時々経験していたんですが・・・ご本人というのは自分も経験がありませんでした!
体調が少し安定したとき、パジャマをドレスに着替え、小さなケーキに仲良く入刀
友人のお二人とスタッフだけのささやかなお祝いでした
お二人の照れたような笑顔がとても素敵でしたが・・・
その少し後から患者さんの状態は悪化し、あまりにも短い間でお別れになってしまいました
先日、緩和ケア病棟で、もと病院スタッフとのお別れがあった
病に侵されてから6年...
長く病気と闘ってきた
2年前に退職したが、その後も治療を続けながら、緩和ケア科の外来に定期的に通院していた
何年か前、新横浜で行われたリレーフォーライフにもサバイバーとして一緒に参加した
残念ながら病気は腹膜播種として広がり、腸閉塞となり、いったんは保存的に軽快したものの再発
緩和ケア病棟に入院し、療養を続けていた
一時は訪問診療、訪問看護を導入し、在宅復帰も目指したが、
本人、ご家族の不安も強く、全身状態が悪化してきたこともあり、実現することはできず、何回か外出を繰り返していた
今思えば最後の外出から帰ってきた翌日、当直明けの回診で部屋を訪ねたときのこと
「久しぶりの家の雰囲気はどうだった?」
「う~ん、すごく良かったあ、やっぱり家はいいなあ、ほら、家の匂いってあるでしょ?
ちょっと疲れちゃったけど、すっごく楽しかった・・・先生、ほんとにありがとう、ほんとに楽しかったの! また行きたいなあ」
そういった顔は、もうずいぶん痩せてしまって、元気な時のイメージではなくなっていたが・・・
それでも本当に穏やかに、満面の笑みで微笑んでくれて、よほどうれしかったのか、手を差し出した
手を握りながら、何回も、何回も「ありがとう」を繰り返した
いつもとは少し違う雰囲気だったので、そのあともずっと気になっていた
翌日は休日、後輩医師が当番だったので病院には行かず、その次の日の朝、ステーションに入ると・・・
机の上に、記載されていない死亡診断書が置いてあった
「だれ?」
彼女だった
2日前にはあんなに喜んでいたのに・・
お別れはあっけなかった
部屋にはご家族がそろっていた
彼女は静かな顔で目を閉じていた
ご家族も献身的にかかわっていた
病院を退院するとき、ストレッチャーの上には花が置かれていた
病棟スタッフばかりでなく、一緒に働いていた多くの仲間がお別れに立ち会い、お見送りでは涙を流していた
緩和ケア科では多く別れがある
それぞれの患者さんにはそれぞれのご家族がいて、それぞれのかかわりがある
別れの悲しみ、つらさもお別れの数だけある
スタッフには「お看取りに慣れてはいけない」と、いつも言っている
もちろん、ご家族のつらさ、悲しみには及ばないし、感情移入のしすぎも好ましくないのかもしれないが・・
やはり、一緒に働いていた仲間を失うのは…いつもより辛い(H30年6月29日)
よろしくお願いします
この4月から柳泉と交代で、髙橋紗緒梨が横浜市大麻酔科の人事で着任しました
また、常勤内科医師の礒部が木曜日に緩和ケア科に参入してくれる事になりました・・・
川田は3年目を迎え、中心となって平和病院緩和ケア科を支えてくれています
精神科の政岡は非常勤ですが、多くの患者さんに見られる『せん妄』の治療に力を発揮してくれています
髙橋(修)ひとりで始めた緩和ケア科も仲間が増えて、パワーアップしてきました!
ただ、まだまだやりたい事を充実させるには多くの仲間が必要です
学会の認定研修施設として、認定医、専門医資格を目指す緩和ケア医が、一緒に働きたいと思ってくれるように、今後も新しい仲間と研鑽していきたいと思います!
これからも平和病院緩和ケア科をよろしくお願いします(平成30年4月27日)
1. | 患者さんが、痛みなどの身体的な苦痛から解放されるだけでなく、精神的にも、社会的にも、穏やかに過ごせるよう、全人的な緩和ケアを提供します。 |
2. | 患者さんとともに戦う、ご家族の気持ちに配慮し、適切な情報の提供を行い、療養の経過中ばかりでなく、死別後に至るまで、支援します。 |
3. | 緩和ケア病棟ばかりでなく、患者さんの状況により、一般病棟、療養病棟も使用し、また、緩和ケア科外来、在宅支援センターなど、病院の持つすべての機能を駆使して患者さんの受け入れを行います。 |
4. | 他職種の職員が、その知識を生かし、専門性を発揮し、互いに情報を共有し、協力することで総合的なケアを提供します。 |
5. | 各職員が研鑽し、研修を行うことで、院内全体の緩和ケアの質の向上を図るだけでなく、対外的な情報発信、教育活動を行い、地域における緩和ケアの質の向上に努めます。 |
6. | 地域における病院、診療所、在宅支援施設との連携を強化し、確実なバックアップを提供することで、「がん難民ゼロ」を目指します。 |
そして、緩和ケア病棟の理念は
患者さんそれぞれの生き方を尊重し、その人らしい、その瞬間(とき)を大切に過ごせるようにします
私たち緩和ケア病棟スタッフは、患者さん個人の考えや生き方を尊重し、限られた時の中でも、その日、その時間を大切にし、
今日できることは先延ばしにせず、その瞬間を大切に過ごしていただくためのお手伝いを全力でしていけたらと思っています。
緩和ケア病棟の理念は、そんな想いを言葉にしました。
私たちは、これらの理念、基本方針にのっとって、これからも良質な緩和ケアの提供を続けていきたいと思っています。
この秋、緩和ケア病棟には緩和ケアの認定看護師を目指す看護師さんが、臨床実習にやってきます。
また、来年には某大学医学部の学生さんが、緩和ケアの見学(実地研修)に来ることが決まっています。
人にものを伝えるには、やはり自分たち自身を磨いていく必要があります。
日常業務に追われることなく、成長を続けていきたいと思っています。
新任医師着任!
6月1日、ついに当院緩和ケア科に新任医師が着任しました。
横浜市内の病院で泌尿器科を担当し、緩和ケアチームで働いていた加藤聡彦(トシヒコ)医師で、
今回緩和ケア専門医師を目指し、当院に着任しました。
以前から県内のがん診療拠点病院の緩和ケア研修会で、同じファシリテーターとして、一緒に仕事をしていたことがあり
顔見知りなので、「人見知りの」自分としても気が楽です。
今日は着任早々、患者さんの急変対応、お看取り、昨夜緊急入院した患者さんの診察、指示出し、病棟回診、
その合間にも、外来通院患者さんが救急車で受診、緊急入院するなど、
まさに「緩和野戦病院」といったあわただしさで・・・
彼も、当院の「忙しさ」は、話しでは聞いていたとは思いますが、初日から「実感」してもらえたようです。
明日は、私も加藤医師も、横須賀の病院で開催される三浦半島地域緩和ケア研修会の講師・ファシリテーターとして
参加の予定ですが、
基本的に、今日は自分は「研修日」として不在の日(ほとんどが呼び出されますが・・・)でしたが、
初日のオリエンテーションもあり、通常出勤しました。
ただ、彼がいない、いつもの金曜日だったら、もちろん呼び出され、1日中てんてこまいとなっていたと思われ、
戦力の充実は実に頼もしく、患者さんやスタッフに接する密度も高まることを実感しました。
緩和ケアに関しては、経験者ですので、病院の実務の流れを理解してもらえれば、さらに戦力アップとると思われます。
しばらくは病棟業務を中心として働いてもらいますが、将来は、外来を含めた診療体制の見直しも検討したいと思っています。
さらに、当直業務もおこないますので・・・・
その日の夜は、よほどのことが無い限り、自分は「緊急呼び出しの無い!」ワンダフルな時を過ごせることになります。
この気持ちの余裕は、たとえ、月に2~3日でも、自分にとっては何年かぶりに経験するもので・・・
自分のメンタルヘルスにも、いい影響となると思われ、
その分、日常業務にもメリハリが出るという、好循環となりそうな気がします。
ただ、人が増えた分だけ、今までと同じ量の仕事をシェアし、自分が楽をするだけででは何もなりません。
今までやりたくても出来なかったことが、まだまだあります。
そこに時間を割けるようになることが何よりも大切なことで、
平和病院の提供する「緩和ケアの質の向上」にますます頑張りたいと思います
(平成24年6月1日)
患者さんを選べるか?
平和病院の緩和ケア病棟には様々な疾患の患者さんが入院しています。
また、その状態も様々で、自分の状況をじゅうぶん理解し、静かな環境の中、
様々な苦痛の除去を受けながら、時間を過ごしている方もいるかと思えば、
認知症、あるいは脳転移などで、大声を出したり、徘徊したり、全く目が離せない患者さんもいます。
ほとんどの患者さんは、体力も落ちているので、転倒したりする危険性も高く、
足を乗せるとナースコールがなるセンサーマットや、クリップが外れるとすぐわかる「う~ごくん」(ナイスなネーミングには感心する)
をつけたりすることも、やむをえないケースもあります。
広い意味でもこれらは「身体拘束」で抑制帯で体をベットに固定してしまう行為と考え方は同じことになります。
原則的に、緩和ケア病棟では抑制帯を使用することはありません。
今の病棟には、自分では歩けず、発言障害があり、認知もあり、希望が通らないと大声を出す患者さん、
認知症と脳転移があり、一時もじっとしていられず、理解力も低下し、そばについていないと、危険な患者さんもいます。
特に夜間は看護師の数も少ないので、一人は付きっ切りで対応が必要で、他の患者さんのケアに時間が割けなくなる場合も出てきます。
また、大きな声は、他の患者さんから「自分もそのうちあんなになってしまうのかしら?」とか・・・
「あんなに大声を出すほど痛がるのかしら」などと、自分と重ね合わせてしまうことにもなります。
おそらく、一般の施設では「安全のため」に「身体拘束」がおこなわれるのでしょうが・・・
看護師の中にも、このような患者さんをどうすればいいのか・・・
いろいろな考えがあると思っています。
このような患者さんが増えれば、他の患者さんに対してのケアの質の低下につながるので、
大声を出したりする患者さんは、ある程度状態がよければ、在宅での療養を行うべきだ・・・
あるいは、一般の病院、病棟で入院しているほうがいいのでは・・・と考えるかもしれません。
この考えも緩和ケア病棟の「特殊性」を考えれば、ある意味決して間違っているとは思いません。
また、緩和ケア病棟は「ありのままの患者さん」を受け入れ、対応すべきで、
そのような患者さんに対しても精一杯のケアを提供するべきである・・・と考えるものもいます。
もちろん、この両者の中間の考えの者もいるでしょう。
緩和ケア病棟では、医師のかかわる時間よりも、看護スタッフの係る時間はず~~っと長くなります。
一人の患者さんの対応に多くの時間を割くことは、スタッフの「疲弊」につながると思っています。
患者さんやご家族のことを考えることはもちろん大前提ですが、
自分としては、スタッフのことを考慮することも重要な努めであると思っています。
緩和ケア病棟に対するイメージは、どちらかというと、静かな環境で、落ち着いた看護、介護、を提供する・・・というものですが、
それでは、このような環境にあてはまらない患者さんはどうすればいいのか?
平和病院の緩和ケア科は一般病棟でも患者さんを受け入れており、これは、緊急も含め、
「がん難民をなくす」という自分のコアとなる考えから、そうしています。
大声を上げたりする患者さんは他の病院、一般病棟で・・・という発想になると、
その患者さんを担当する一般病棟の看護スタッフがどう感じるか?
自分は緩和ケア科の医師ではありますが、緩和ケア病棟だけを見ているわけではありません。
一般病棟の患者さんももちろんですが、院長として全部の病棟に対しての責任を負っています。
一般病棟では、緩和ケア病棟の入院患者さんより多くの緩和ケア科の患者さんが入院しています。
ほとんどが、外来通院中、あるいは往診対応の患者さんの緊急入院、
あるいは状態が悪く、緩和ケア病棟の待機を続けることが困難な患者さんです。
確かに、緩和ケア病棟の患者さんと、一般病棟の患者さんでは、同じ緩和ケア科の患者さんでも、
入院のパターン、緊急治療の有無など、ずいぶん違うと感じていますが、
いわゆる「介護上の問題」でケアの必要度が高い患者さんの入院を一般病棟と、緩和ケア病棟で境界線を設けてしまうのか
あるいは、それ以前に、入院受入れの時点で境界線を設定してしまうのか・・・
多くの患者さんを経験するようになると、この問題は、決して避けては通れない問題になります。
もちろん自分だけの考えで方針を決めることは出来ません。
単純にケースバイケースといってしまえば簡単なのかもしれませんが、
根底には、緩和ケア科だけの問題ではなく、「ケアを提供する」基本的な考えの問題が横たわっています。
先日、たまたま在宅復帰していった患者さんが、続きました。
一人はご家族の協力、ご理解を得て、夜間に退院していただいたケース。
もう一人は徹底的にスタッフがかかわり、予定どおり退院できたケース。
緩和ケア病棟のスタッフは、自分が感心するくらい、根気強く係っていました。本当に頭が下がる思いで見ていました。
ただ・・・スタッフの行為を、自分が断ち切ることが必要なのか、やってはいけないことなのか、
あるいは、そのような事態が起こらないように「調整」することが必要なのか、そうすることはが自分の基本的な想いに反しないのか・・・
毎日があわただしく過ぎていくなかで、今後も何回も繰り返し考えていかなければならない問題だと想っています。
他の緩和ケア病棟はどうなんだろう・・・
もう少し突き詰めて考える必要がありそうです。(平成24年5月20日)
かぶと
緩和ケア病棟ではなるべく季節を感じていただけるようにスタッフが工夫を凝らしています。
端午の節句の時期には、かぶとが登場しました。
このかぶとは、自分の息子の初節句ときに買ったもので、
もう、15年以上もしまいっぱなしになっていたのを自宅から持ってきました。
本当は、父が生まれたときに祖父が買い与えた(大正4年)八幡太郎義家の武者人形を飾ろうと思っていました。
白馬にまたがった義家に2名の従者が仕えているもので、かなりの大きさのものです。
自分が子どもの時には、義家の刀を抜いて遊んだりした記憶があります。
もう、100年近く前の人形ですが、これも息子の初節句の時に出したきり、18年も飾っていません。
ただ、かなりの大きさなので、今年は飾るのを断念しました。
何人もの患者さんや、ご家族が、このかぶとの前で記念写真を撮る姿を見かけたので
持ってきてよかったと思いました。
廊下の突き当たりの窓からは、庭園の五月の花が満開になっているのが見えます。
連休の時は、患者さんがベッドごと庭園に出て、さわやかな風に吹かれながら、
花を見つめていました。
節目節目の行事は、いろいろな想いを患者さん、ご家族に運ぶと思っています。
今、生きている時間を感じる方、、残された時間を感じる方、来年の今頃のことを複雑な思いで感じる方・・・
それぞれの、そして、さまざまな想いをのせて、季節はめぐっていきます(平成24年5月8日)
予想以上
今年度もあと1ヶ月をきってしまった。
今年度が始まる前、緩和ケア科の新規紹介患者数を300人程度と予想していた。
平和病院で緩和ケアを積極的に行っていることは、徐々に浸透しつつあり、3年前が50人、2年前が140人、1年前は270人と、
かなりの勢いで患者さんは増えていった。
昨年6月に緩和ケア病棟が開設されてからは、より遠くの病院からも紹介患者さんが集まるようになり、
特に、横浜市で緩和ケア病棟を持つ某病院の医師が離職することが決まり、その病院が新規患者さんの受入れを
制限するようになってからは、さらに患者さんは増えている。
平和病院では、もともと一般病棟で患者さんを受け入れていたが、
緩和ケア病棟が出来てからもその体制は維持している。
緩和ケア病棟だけで患者さんを受け入れていては、たどり着くまでに患者さんは状態が悪くなることも多い。
緩和ケア科の外来診療もしっかり機能させているので、在宅で療養を継続できる患者さんも多く、今では100名を超えている。
また、近隣に緩和ケアに精通した診療所の先生も増えたこともあり、通院が困難になっても、
在宅で緩和ケアを継続して受けることが出来る患者さんも増えてきた。
鶴見区は緩和ケア連携がかなり充実している地域であると考えている。
このような患者さんに対しての確実なバックアップを提供することも、当院の大切な機能の一つで、
医師当直室には、緩和ケア科の患者さんの緊急連絡時には「院長コール」をお願いします・・・と、
患者さんの一覧が掲示してあり、随時更新されているが、
なんと140人を越えてしまっている!!
この前、学会に発表する準備で、緩和ケア病棟が出来てから7ヶ月間の統計を取ってみたが、
入院した患者さんの数は、緩和ケア病棟が40人程度であったのに対し、一般病棟は110人と、圧倒的に一般病棟のほうが多い。
もちろん、一般病棟から緩和ケア病棟に転棟する患者さんも多いが、
一般病棟に入院した患者さんの54%が、外来や、往診患者さんの、いわゆる「緊急入院」で、
その40%弱が、再度在宅復帰が可能になっていた。
緩和ケア病棟では、緊急で患者さんを受けるのは不可能なので、
以前から学会などで強調しているように、一般病棟での対応は地域での緩和ケアの充実には欠かせない。
今年度は、すでに380人の患者さんが新しく受診した。
最近は1ヶ月で40人程度の紹介数なので、どうやら年度はじめの予想を100人以上も上回ることになりそうだ。
以前は、一般病棟の稼働率がそれほど高くはなかったので、緩和ケア科の緊急患者さんは「いつでも」入院できる状態であり、
なにかあったときには「必ず」受けることを約束してきた。これは、自分としてのポリシーでもある!
この2月から、横浜脊椎脊髄病センターが開設されて以来、外科系一般病棟の稼働率はあがり、
以前のように病床が簡単に確保できる状態ではなくなってきた。
院長として、経営者の立場からすれば、まことに好ましい状況なのだが、
緩和ケア科の医師としては、ベッドコントロールが以前に比べると厳しくなりつつある。
まだ現状ではいつでも緊急の場合は受け入れる体制を維持出来ているが、
緩和ケア科の患者さんもこれ以上増えると、基本的なスタンスの維持が難しくなる可能性もある。
6月には緩和ケア科の常勤医師が1名増えることになった。(まだまだ何人でもほしいのが本音だ!)
今までより余裕のできる部分を、どのような形で患者さんに還元していくか・・・思案のしどころだ。
今ではほとんど出来なくなってしまった在宅に再び力を割くのか・・・
外来機能を強化し、受入れ人数をさらに増やし、待機待ちの時間を短くし、すばやい対応を目指すのか・・・
もちろん、自分自身やスタッフののスキルアップも含めた、提供する緩和ケアの質の維持向上は言うまでもないが・・・
地域全体の緩和ケアに対するパワーアップのお手伝いもしなくてはならない。
実際に来院出来ない患者さんに対する「緩和ケア相談」などもぜひ展開してみたい・・・
いずれにしても、人員が増えるからといって、のんびりできる・・・・ということはないような気がする。
緩和ケア病棟は、やはり、バタバタせず、落ち着いた環境で、緩和ケアを提供する場所だと思っている。
いかに、他の部署で緩和ケア病棟に近い療養環境と質を維持していくかが、今後の大きな課題になっていく
これからも予想を超えて平和病院にたどり着く患者さん達に対応するため、まだまだ気は抜けない。(平成24年3月4日)
新しい仲間
緩和ケア科の患者さんに対しては、様々な症状の緩和がもちろん必要になるが、
よく「全人的苦痛」といって、身体的苦痛だけではなく、社会的、精神的、霊的な苦痛に対しても対応することが求められている。
緩和ケアを提供する病院、緩和ケア病棟のスタッフには、精神科の医師が在席することもあるが、
大病院ならともかく、なかなか中小病院に精神科の医師が在席することは多くはない。
ところが、緩和ケアで使用する薬剤の中には精神科で使用される薬剤も多く(いわゆる向精神薬)、
吐き気、不眠、せん妄(不穏)、痛み、倦怠感など様々な症状に対して使われることも多い。
特に、「せん妄」と呼ばれる意識の混乱、は状態が悪化した患者さんだけでなく、ご家族にとってもつらい症状となり、
看護師にとってもその対応に苦慮するおおきな問題となる。
実は、緩和ケアの指導者講習会も、「身体」と「精神」に分けられており、
一般の医師が受講する「緩和ケア研修会」でも「精神症状」の部分は精神科の先生が担当することになっている。
ただ、実際のケアをおこなう時、どうしても精神症状がコントロールが出来にくい患者さんもいるのも事実で、
平和病院の緩和ケア科にも精神科の先生が加わってくれたら・・・
との想いが、自分の中にも、看護スタッフの中にも強くあり、専門医師の確保をめざしていたが・・・、
ついに今月から非常勤ではあるが、緩和ケア科に、精神神経科の医師が勤務することになった!
外来診療はおこなわず、入院患者さんに対して、専門的な立場での診療、コンサルトをおこなう。
緩和ケア病棟にとっては、かなりのパワーアップとなり、
また、他科の患者さんの対応もおこなうので、病院全体にとっても大きな力を得たことになった。
今後も多職種の人材を確保し、さらに質の高いケアを提供していきたい。(平成23年12月9日)
弾く人、聴く人
ある日、病室に行くと、部屋にキーボードが置いてあった。
Aさんが来月、発表会があるとの事で、練習用に部屋に持ち込んだのだ。
ヘッドホンをつけて、部屋で練習するらしい。
何日か前えには、Aさんは音楽療法にも参加し、いっぱい歌ってきたと、楽しそうに話してくださった。
楽器に関しては自分も興味があるので、Aさんの体調を聞くのも忘れ、しばらく触らせてもらった。
最近習い始めたばかりだとの事だが、ぜひ一度聞かせてもらいたいと思った。
時間があったら、発表会にも行かせていただきたいとも考えた。
同じ日、Bさんの病室にもスタッフによって、病院の小さなキーボードが運び込まれた。
お孫さんが、おばあちゃんに弾いて聞かせたいとの希望があり、Bさんのご主人に頼まれ、用意したものだ。
「看護師さんや、先生もどうぞ聴いてください!」といわれたが、お孫さんは照れてしまったので、
曲が聞こえてきた時、入り口からそっとのぞかせてもらった。
Bさんの部屋には何人かの親戚の方が集まり、さながら「ミニコンサート」のようになっていた。
Bさんはベッドを起こし、お孫さんの弾く曲に耳を傾け、穏やかな顔で、静かに笑っていた。
これって・・・なんだか・・いいよね!
ここは緩和ケア病棟なんだな・・・と、あらためて思った。
こんな小さな出来事も、一般病棟では、なかなか難しかったかもしれない。
この病棟なら、多くのスタッフがアイデアを持ち寄れば、もっともっといろいろなことが出来るかもしれない・・・・
そんなことを感じる1日だった。
平和病院の緩和ケア病棟は、まだまだ生まれたばかりだ。(平成23年9月3日)
静かな時間
平和病院の緩和ケア科では、従来、緩和ケア病棟がなかったので、一般病棟で患者さんが入院していた。
新病院では,
「緩和ケア病棟を作る」事が自分にとっての大きな目標の一つであったし、
数年かけて資格取得などの準備も行ったが・・・
実際、「緩和ケア病棟」がどのようになるのか・・・予想が出来ない部分があったことも事実だ。
設計段階で、他の病院の緩和ケア病棟を見学させていただき、
取り入れるべき点、運用上不便な点なども、ある程度把握したが・・・
もちろん、予算上、建築面積上の制限もあり、あれもこれも・・・と、すべての希望をかなえることは、実際問題として不可能だった。
これは、緩和ケア病棟ばかりでなく、新病院におけるすべての部分で言えることだ。
緩和ケア病棟では施設基準も厳しく、患者さんやご家族のための設備が、一般病棟には必要とされないものも要求されている。
また、看護基準の点でも、平和病院の一般病棟の基準より看護師の配置を厚くしなければならなかった。
この点では、もともと十分余裕を持った看護人員の配置が出来ない(多くの中小病院の宿命でもいある)看護部には、苦労をかけたと思っている。
新病院に移行する前、看護部では各部署の勤務希望を募り、「緩和ケア病棟」の勤務を希望した看護師が多く配置された。
一般病棟では、いろいろな状態の患者さんを看なければならず、
手術患者さん、透析患者さん、寝たきりの状態の患者さん、超急性期の患者さん、緩和ケアが必要な患者さんなどが混在していたので、
看護師は大変だったと思う。
(今では内科系、外科系に分かれたが、それでも完全に区別が出来ているとはいえない)
緩和ケアに深く関わりたいと思っていた看護師も、実際時間をとることができず、悩んだスタッフも少なくなかったのではないかと思っている。
ただ、緩和ケア病棟では、すべての患者さんが緩和ケアの提供を目的に入院しているので、
方向性は統一されている。(ただ、一般病棟に入院していただいている緩和ケア科の患者さんもまだ多い)
また、病床数も16床(全室個室)と、一般病棟や、医療療養病棟に比べ、少ないせいもあるのか・・・
他の病棟の雰囲気に比べ、「静か」なことは、そんな病棟を目指していたのだが、実際、病棟にいて一番感じることだ。
「静か」というのは、別に、実際の音量(それもあるが)の大きさだけではない。
今は、すべての病棟、病院全体を、漠然としているが、「静かで落ち着いた雰囲気」にする事が必要だと思っているし、
自分にとって大きな課題でもある。
緩和ケア病棟のホールにはBGMが流れているし、ほのかにアロマの香りがしている。
新病院では声が意外に大きく響くので、患者さんからご指摘をいただくこともあるが、緩和ケア病棟では気になることも無い。
来週には、廊下の壁面に何枚かの絵画が飾られることになっており、自分でも楽しみにしている。
絵画は、なるべく落ち着いた雰囲気のものを、自分で選んだのだが・・・
将来は、「ミニギャラリー」のようにしたいとも思っている。
まだまだ、生まれたての緩和ケア病棟を、多くのスタッフと一緒になり、
「平和病院の緩和ケア病棟を選んでよかった」と、すべての患者さん、ご家族に感じていただけるような・・・
そんな病棟に育てていきたいと思っている。(平成23年8月19日)